【ヒューマン】菊川怜29歳、“東大”の呪縛も20代で卒業
 ドラマで女医役に初挑戦している菊川怜=東京都渋谷区

 女優、菊川怜(29)が20代最後の年を迎えた。東大2年時にスカウトされ、才色兼備の女優としてデビューしてから9年。ガムシャラに突っ走ってきたつもりだが、実はこの“東大”の2文字が、かえって自身を制限していたと振り返る。30代を前に「やっと気にしない自分になれた」。いま菊川の中で、大きく何かが変わろうとしている。


(ペン・古田 貴士 カメラ・今井 正人)




 取材し始めると、すぐに、あれ?なんか雰囲気が変わったなと感じた。

 出演中のNHK「病院のチカラ〜星空ホスピタル〜」(土曜後9・0)は、天才的な手術テクニックを持つが人に心を開かない、菊川演じる女医・ともみが、地方の病院で患者と触れ合い、徐々に生まれ変わっていくヒューマンドラマ。「この作品、役との出会いは貴重な経験になりました」と話す姿から、何か心境に大きな変化があったことがうかがえる。

 「ともみの行動が胸に響くんです。ともみって本当は人と触れ合うのがとっても怖い人。患者に感情移入しすぎちゃうから、自分の受け持った子が治らないことが辛くて耐えられない。だからこそ周りに壁を作っていた。天才なんて言われていますけど、ともみは完ぺきな人間ではないし、弱いところがいっぱいある。身近にいる人たちはそれに気づいてるんですね。そんなところにすごく共感できました」

 形は違うが自身も周りに壁を作ってきた。それはデビュー以来、必ずついて回った“東大出身の女優”という言葉が大きい。才色兼備と見る周りの目は、知らず知らずのうちに行動を制限した。


 「東大、東大と見られるのは嫌でしたね。それだけじゃないのに…とずっと思っていました。知らないうちに周りにガードを作るようになっていました」

 周囲が勝手な想像でイメージを膨らませるほど「どういう風に自分を表現していいのか分からない」と戸惑い、壁を厚くしていく。そんな悪循環を変えていったのは、これまでの数々の経験から生まれた自信だ。

 東大在学中に芸能界デビューして、はや9年。

 「高校時代はもともと進学校(東京・桜蔭高校)だし、周りに乗せられている感じもあって勉強していました。でもこのまま大学に入ってどうなるんだろうと考えたとき、私の夢って何だろうと思ったんです。映画の道に進みたいなと思ったのはそのとき。たまたまスカウトされて一生懸命頑張っていたら、いつの間にかこんなに時間がたっちゃった」

 20代で経験したドラマ、映画、CM、報道番組などあらゆる仕事は大きな財産。土台がしっかりしたからこそ、周りの言葉に左右されることなく、今ではあんなに嫌だった東大という言葉も笑って聞き流せる。

 「どうでもよくなりましたね。今はそのまま受け止めるようにしています。東大に行って勉強したことも私の大事な経験の一つ。自分の通ってきた道なんだから」

 30代を前に考えるのは「これからはきちんと自分と向き合って、自己管理をしっかりできる女性になりたい」ということ。ともみもだんだんと周りに心を開き、これまでの自分の生き方と向き合っていくが、「人と真剣に向き合うということは、自分の生き方もさらけ出すことにつながる。そうやって自分と向き合うことで、ともみは人として成長していくんです」と、まるで自分と重ねるように話す。

 仕事は充実しているようだが、プライベートは?

 「結婚は、相手がいないので…。縁だと思うから、ひそかに期待はしています(笑)。タイプは映画のウィル・スミスさんみたいな人。明るくて陽気で家族を大事にして、一緒にいて楽しくて、温かくて。あと、尊敬できる人がいいなぁ」

 そう言って「注文多すぎ?」とケラケラ。

 「この先自分はどうなっているんだろうって考えると、すごく楽しいことが待っているような気がするんですよ。芸能界の仕事ってハードな部分が多いけど、確実に私が成長するきっかけになっていると思うんです」

 いまはともみとともに成長中。きっとドラマが終わるころには、また新しい菊川怜が生まれていることだろう。


★「日曜日が楽しみ」な理由

 菊川にとって、いまや切っても切り離せない存在となったのが、平成14年10月からキャスターを務めている日本テレビ系報道番組「真相報道 バンキシャ!」だ。

 「毎週日曜日が楽しみなんです。ほかの仕事に追われていると、結構怠け者なんで視野が狭くなっちゃうんですけど、この番組のおかげで毎週新しい物に触れ合える。いつも良い空気を吸わせてもらってます」

 ちょっと気になったので、何カ国語ぐらい話せるのか聞いたところ、「そんなにしゃべれないですよ。日本語に、英語に、大学時代第2外国語に習っていたドイツ語。後はセリフで覚えた中国語ぐらいです。モンゴル語はあいさつぐらいなら」。

 十分だと思います。